事例インタビュー

April 8, 2026

3Dプリンター「WASP」と3D CADアプリケーションが切り拓く、義肢装具製作のデジタルファブリケーションの未来

義肢装具製作のデジタル化を推進し、3DCADアプリケーションの自社開発やペレット式3Dプリンター「WASP」を導入した有限会社JIVE 代表取締役岩本慎一氏に義肢装具製作のデジタルファブリケーションの未来についてお話を伺いました。

義肢装具製作の現場において、従来の石膏モデルによるアナログ製法は膨大な製作時間と材料廃棄の発生、そして技術継承の難しさという課題を抱えています。その中で10年前から義肢装具製作のデジタル化を推進し、3DCADアプリケーションの自社開発やペレット式3Dプリンター「WASP」を導入した有限会社JIVE 代表取締役岩本慎一氏にお話を伺いました。

【3DプリンターとCADアプリケーションによるデジタル化のメリット】

――まず、岩本さんが10年以上前から「製作のデジタル化」に着目されたきっかけを教えてください。

岩本氏:大きな理由は2つあります。1つはいずれ義肢装具の業界でも「データビジネス」が主流になるだろうという予感があったこと。もう1つは、アナログ製作の限界を感じていたことです。従来の手法では、一度作ったものの「データ」が残らないため、同じものをもう一度作ることが非常に困難でした。データを蓄積して残すことができれば、将来的に技術を継承し、事業を安定して続けていけると考えたのが始まりです。

WASPを活用して製作した義肢装具
WASPを活用して製作した義肢装具

――現在はWASP社製3Dプリンターをメインに活用されていますが、3Dプリンター導入の決め手は何だったのでしょうか。

岩本氏:長年の課題でもあった「膨大な製作時間の解消」につながる可能性を感じたからです。従来の石膏モデルを用いる方法では、一点の装具を作るのに約240分の製作時間を要していました。実際に3Dプリンターを活用すると、技師の実作業が必要な時間が減り、特にプリンター造形中の時間は他の業務に従事できるようになったため、1日の業務時間で対応できる件数も増えました。具体的な時間としては、実作業時間自体は設計15分・仕上げ15分の計30分程度まで短縮され、飛躍的に生産性が向上しています。
また、大量の材料廃棄が発生するという問題も解消できました。例えばコルセットを従来の石膏モデル手法や切削加工で作る場合、資材の約85%が廃材となってしまいます。しかし、現在メインで稼働させているWASPのようなペレット式3Dプリンターは、樹脂ペレットを直接使用して造形するため、ゴミがほとんど出ません。万が一造形不良が起きても再利用が可能でサステナブルなモノづくりが可能です。

比較項目 従来の石膏モデル 3Dプリンター (WASP)
材料の廃棄量 約85%廃棄量が発生 0〜10%廃棄量が発生 (再利用であれば発生無し)
造形時間 約240分 180分
└ 技師の拘束時間 240分 (総時間の100%) 30分 (総時間の約17%)

――CAD未経験者でも簡単に3Dデータが作成できると評判の3DCADアプリケーション「JIVE3DD」について教えてください。

岩本氏:はい。まずこのアプリケーションのターゲットは「設計をしたことがない人、パソコンに詳しくない人」としています。高機能な汎用CADは熟練が必要ですが、CAD未経験者が多くを占めるこの業界において学習コストなく浸透できるように、本アプリはマウス一つで直感的に操作できる設計をしています。JIVE3DDはこれまで、現場の「なぜここで操作が止まるのか」という声を拾い上げ、すでに100回、200回とアップデートを繰り返してきました。今ではCAD未経験の方でも15分あれば設計できるようなユーザビリティに優れたアプリケーションへと進化しました。

JIVE3DDの活用によって職人が頭の中で持っている「暗黙知」を数値化・可視化できるようになり、これらのデータの活用でオーソドックスな部分については新入社員でもすぐに義肢装具を設計できるようになると考えています。

独自のCADアプリケーション「JIVE3DD」はユーザーの使いやすさを徹底し、初めてCADに触れる人でも簡単に3Dデータを作成することができる。

【義肢装具士の不足とデジタル技術による技術継承】

――義肢装具業界の現状や今後について教えてください。

岩本氏:全国に義肢装具士は約3,000人いますが、毎年新たに加わるのは実質的には80人ほどしかいないという人材減少の課題を抱えています。今現在、特に地方では1件の計測のために片道4時間かけて医療機関に訪問するといった状況も珍しくなく、このままでは遠隔地や離島の方々に必要な時に装具を届けられない時代が来ます。ですがデジタル技術があれば、現地の医療従事者にスキャンデータを送ってもらい、離れた場所で設計・造形して発送することが可能になると考えています。また、在宅での設計ワークが可能になれば、出産や育児で現場を離れざるを得なかった女性技術者のキャリア継続にも繋がると期待しています。

――デジタル化をさらに普及させるための課題は何でしょうか。

岩本氏:最大の障壁の一つは法整備です。現在の保険制度上、スキャンデータがあっても形式的に石膏採型を行わなければならないといった、時代にそぐわない側面があります。また、物価高に対して厚生労働省が決める装具価格が据え置かれているため、中小企業が設備投資に回せる資金が少ないという現実もあります。しかし、これからの5年、10年で若い世代への経営交代が進めば、一気にデジタル化が加速するはずです。

弊社ではこの環境下でも義肢装具業界の将来のためにデジタル化を推進したいと考え、JIVE3DDを初期投資不要の安価な都度課金制で提供するなどの取り組みを行っています。

――最後に、読者へメッセージをお願いします。

岩本氏:義肢装具業界は今まさにターニングポイントに立っています。今後も必要とするすべての人に義肢装具を提供し続けられるように、臨床の場で多くの経験を積んだ技術と新しいデジタル技術を融合させ、時代に適応した形で次の世代へ継承していきたいと考えています。これからも明るい業界の未来を装具士、患者さん、医療機関の皆さんと共に創造していきたいです。

有限会社JIVE(愛媛県松山市)

3Dデータ設計から設計アプリケーション「JIVE3DD」の展開まで、義肢装具のDXをトータルでサポート。セミナー開催や現地見学も随時対応している。

https://www.jive-custom.com/

ペレット方式3Dプリンター WASP

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